2009年09月29日
11月に玄海原発で…。
プルサーマル計画:ようやく始動へ 当初予定から10年遅れ、11月に玄海原発で
原子力発電の使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを商業用原発(軽水炉)で利用する「プルサーマル」計画。11月の九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)を皮切りに、国内の各原発で順次導入される。政府が推進方針を掲げてから10年以上が経過し、導入開始は当初の予定からずれ込んだうえ、今後の見通しも不透明だ。現状と問題点を探った。【曽根田和久】
◆もんじゅの代役
「前回はこの港で燃料を搬入しながら、未使用のまま送り返さざるを得なかった。今回はなんとか実現したい」。10年からのプルサーマル導入を予定している関西電力高浜原発(福井県高浜町)。原発そばの港で担当者は力を込めた。
プルサーマルは、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜた「MOX(混合酸化物)燃料」を軽水炉で使用する技術を指す和製英語だ。
軽水炉の使用済み核燃料を再処理すると、プルトニウムが取り出せる。政府はプルトニウムを高速増殖炉で再利用する核燃料サイクルを原子力政策の基本に据えてきた。高速増殖炉でプルトニウムを使えば、消費した以上の核燃料を得ることが理論的に可能。核燃料サイクルは準国産エネルギーという位置付けだった。
しかし高速増殖炉の開発は、1995年に起きた原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)のナトリウム漏れ事故で頓挫。プルトニウムは核兵器にも転用可能なため、国際的な監視の目が厳しい。政府は余剰のプルトニウムを保有しないよう、97年に軽水炉で消費するプルサーマル推進を決めた。
◆不祥事追い打ち
当初は「2000年までに3、4基の原発で実施し、10年ごろまでに全電気事業者が実施する」という方針で、関西電力と東京電力が先行導入する予定だった。
しかし99年、関電高浜3、4号機で使用予定だったMOX燃料に検査データ捏造(ねつぞう)が発覚。01年には東電柏崎刈羽のプルサーマルに対する地元の住民投票で、反対が過半数を占め、東電が計画延期を余儀なくされた。その後も東京電力のトラブル隠し(02年)など原発の不祥事で導入が遅れ、後発のはずの3事業者での導入が先行する結果となった。
◆安全性に懸念も
本来、ウラン燃料を使う軽水炉に、MOX燃料を使うことへの不安もある。使用済みMOX燃料の処分も具体的な道筋は不透明だ。
小出裕章・京都大原子炉実験所助教(原子核工学)は「プルトニウムはウランより核分裂を起こしやすい。うまく燃えても危険性が増す。MOX燃料を使うのであれば、制御棒の数を増やすなど原子炉の改修工事が必要だ」と指摘する。
これに対し、関電は「制御棒の能力は低下するが、その影響はわずか」との立場だ。高浜3、4号機でMOX燃料を全体の約4分の1使用した場合、制御棒の能力はウラン燃料だけの場合に比べ約4%低下するという。だが制御棒には余裕があるため、「保安規定の150%の制御能力がある。安全に停止する能力は確保されている」(原子力事業本部)と自信を見せる。
一方、使用済み核燃料について小出助教は「ウラン燃料に比べて放射線量や熱量が大きく、取り扱いが難しい。使用済みのMOX燃料は再処理すべきでない」と主張する。
国内では86~07年に、新型転換炉「ふげん」(福井県敦賀市、03年に運転終了)の使用済みMOX燃料29トンを再処理した実績がある。資源エネルギー庁は「仏では使用済みのウラン、MOX両燃料を一緒に処理した例もある」と強調。しかし、長沢啓行・大阪府立大名誉教授(生産管理システム)は「ふげんの燃料は燃焼度が低く、再処理できて当たり前。今後使用される高燃焼度のMOX燃料の技術が確立しているとはいえない」と批判する。
国の原子力政策大綱は、MOX燃料再処理について「10年ごろから検討を開始する」と記されているに過ぎない。しかも、使用済み核燃料の保管場所さえ決まっていない。同庁は「MOX燃料の再処理は、来年10月予定の六ケ所再処理工場操業後の課題。何十年も先の話だ」と楽観する。計画から大幅に遅れて始まるプルサーマルだが、課題は未解決のまま残されている。
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<プルサーマルをめぐる主な動き>
1972年 国の原子力長期計画がプルサーマルの必要性に言及
86~95年 日本原電敦賀1号機と関電美浜1号機で少量のMOX燃料を試験的に使用
95年 高速増殖炉「もんじゅ」でナトリウム漏れ事故
97年 政府がプルサーマルを含む核燃料サイクル推進を閣議了解。電事連は「99年にプルサーマルを開始し、2010年までに全国16~18基で実施する」との計画を公表
99年 関電高浜3、4号で使用するMOX燃料の検査データ捏造判明。計画延期に
2001年 新潟県刈羽村の住民投票で東電柏崎刈羽のプルサーマル計画に過半数が反対。東電が計画見送りを決定
05年 政府が原子力政策大綱を閣議決定。核燃料サイクル推進を明記
08年 関電がプルサーマル計画を再開
09年 5月 中部浜岡、四国伊方、九州玄海の3原発にフランスからMOX燃料到着
6月 電事連がプルサーマル計画の目標達成時期を「10年」から「15年」に延期
11月 玄海3号機がプルサーマル開始予定
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<プルサーマル導入予定の原発>
《北海道電力》泊3号
《東北電力》女川3号(宮城県)
《東京電力》同社の原発3~4基
《中部電力》浜岡4号(静岡県)
《北陸電力》志賀(石川県)
《関西電力》高浜3、4号と大飯1~2号の3~4基(ともに福井県)
《中国電力》島根2号(島根県)
《四国電力》伊方3号(愛媛県)
《九州電力》玄海3号(佐賀県)
《日本原電》敦賀2号(福井県)、東海第2(茨城県)
《電源開発》大間(青森県、建設中)
(毎日新聞 2009年9月29日 東京朝刊)
原子力発電の使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを商業用原発(軽水炉)で利用する「プルサーマル」計画。11月の九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)を皮切りに、国内の各原発で順次導入される。政府が推進方針を掲げてから10年以上が経過し、導入開始は当初の予定からずれ込んだうえ、今後の見通しも不透明だ。現状と問題点を探った。【曽根田和久】
◆もんじゅの代役
「前回はこの港で燃料を搬入しながら、未使用のまま送り返さざるを得なかった。今回はなんとか実現したい」。10年からのプルサーマル導入を予定している関西電力高浜原発(福井県高浜町)。原発そばの港で担当者は力を込めた。
プルサーマルは、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜた「MOX(混合酸化物)燃料」を軽水炉で使用する技術を指す和製英語だ。
軽水炉の使用済み核燃料を再処理すると、プルトニウムが取り出せる。政府はプルトニウムを高速増殖炉で再利用する核燃料サイクルを原子力政策の基本に据えてきた。高速増殖炉でプルトニウムを使えば、消費した以上の核燃料を得ることが理論的に可能。核燃料サイクルは準国産エネルギーという位置付けだった。
しかし高速増殖炉の開発は、1995年に起きた原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)のナトリウム漏れ事故で頓挫。プルトニウムは核兵器にも転用可能なため、国際的な監視の目が厳しい。政府は余剰のプルトニウムを保有しないよう、97年に軽水炉で消費するプルサーマル推進を決めた。
◆不祥事追い打ち
当初は「2000年までに3、4基の原発で実施し、10年ごろまでに全電気事業者が実施する」という方針で、関西電力と東京電力が先行導入する予定だった。
しかし99年、関電高浜3、4号機で使用予定だったMOX燃料に検査データ捏造(ねつぞう)が発覚。01年には東電柏崎刈羽のプルサーマルに対する地元の住民投票で、反対が過半数を占め、東電が計画延期を余儀なくされた。その後も東京電力のトラブル隠し(02年)など原発の不祥事で導入が遅れ、後発のはずの3事業者での導入が先行する結果となった。
◆安全性に懸念も
本来、ウラン燃料を使う軽水炉に、MOX燃料を使うことへの不安もある。使用済みMOX燃料の処分も具体的な道筋は不透明だ。
小出裕章・京都大原子炉実験所助教(原子核工学)は「プルトニウムはウランより核分裂を起こしやすい。うまく燃えても危険性が増す。MOX燃料を使うのであれば、制御棒の数を増やすなど原子炉の改修工事が必要だ」と指摘する。
これに対し、関電は「制御棒の能力は低下するが、その影響はわずか」との立場だ。高浜3、4号機でMOX燃料を全体の約4分の1使用した場合、制御棒の能力はウラン燃料だけの場合に比べ約4%低下するという。だが制御棒には余裕があるため、「保安規定の150%の制御能力がある。安全に停止する能力は確保されている」(原子力事業本部)と自信を見せる。
一方、使用済み核燃料について小出助教は「ウラン燃料に比べて放射線量や熱量が大きく、取り扱いが難しい。使用済みのMOX燃料は再処理すべきでない」と主張する。
国内では86~07年に、新型転換炉「ふげん」(福井県敦賀市、03年に運転終了)の使用済みMOX燃料29トンを再処理した実績がある。資源エネルギー庁は「仏では使用済みのウラン、MOX両燃料を一緒に処理した例もある」と強調。しかし、長沢啓行・大阪府立大名誉教授(生産管理システム)は「ふげんの燃料は燃焼度が低く、再処理できて当たり前。今後使用される高燃焼度のMOX燃料の技術が確立しているとはいえない」と批判する。
国の原子力政策大綱は、MOX燃料再処理について「10年ごろから検討を開始する」と記されているに過ぎない。しかも、使用済み核燃料の保管場所さえ決まっていない。同庁は「MOX燃料の再処理は、来年10月予定の六ケ所再処理工場操業後の課題。何十年も先の話だ」と楽観する。計画から大幅に遅れて始まるプルサーマルだが、課題は未解決のまま残されている。
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<プルサーマルをめぐる主な動き>
1972年 国の原子力長期計画がプルサーマルの必要性に言及
86~95年 日本原電敦賀1号機と関電美浜1号機で少量のMOX燃料を試験的に使用
95年 高速増殖炉「もんじゅ」でナトリウム漏れ事故
97年 政府がプルサーマルを含む核燃料サイクル推進を閣議了解。電事連は「99年にプルサーマルを開始し、2010年までに全国16~18基で実施する」との計画を公表
99年 関電高浜3、4号で使用するMOX燃料の検査データ捏造判明。計画延期に
2001年 新潟県刈羽村の住民投票で東電柏崎刈羽のプルサーマル計画に過半数が反対。東電が計画見送りを決定
05年 政府が原子力政策大綱を閣議決定。核燃料サイクル推進を明記
08年 関電がプルサーマル計画を再開
09年 5月 中部浜岡、四国伊方、九州玄海の3原発にフランスからMOX燃料到着
6月 電事連がプルサーマル計画の目標達成時期を「10年」から「15年」に延期
11月 玄海3号機がプルサーマル開始予定
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<プルサーマル導入予定の原発>
《北海道電力》泊3号
《東北電力》女川3号(宮城県)
《東京電力》同社の原発3~4基
《中部電力》浜岡4号(静岡県)
《北陸電力》志賀(石川県)
《関西電力》高浜3、4号と大飯1~2号の3~4基(ともに福井県)
《中国電力》島根2号(島根県)
《四国電力》伊方3号(愛媛県)
《九州電力》玄海3号(佐賀県)
《日本原電》敦賀2号(福井県)、東海第2(茨城県)
《電源開発》大間(青森県、建設中)
Posted by 昏君 at 16:28│Comments(0)
│玄海原発
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